「セットバックについて知りたい」
「セットバックすると費用がかかるのか知りたい」
「助成金や固定資産税免除の申請について知りたい」
このようにお考えではありませんか?

セットバックとは、自宅に隣接する道路を広げるために、自分の土地の面積を小さくすることで、車両が通行する道路の幅が狭い場合に、緊急車両が問題なく通れるようにすることを目的としています。

セットバックは、基本的に自分で費用を負担しなければいけません。費用相場としては30~80万円程度となっており、建て替えとなると解体費用もかかってきます。

しかし、土地をセットバックし、特定の要件を満たして公共の道路として利用される土地となった場合は、自治体へ申請することで非課税となる場合があります。

この記事では、土地所有者が負担する場合の費用や手続きの手順について解説していきます。これから家を建てようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。

セットバックの費用相場と内訳

セットバックとは、自宅に隣接する道路を広げるために、自分の土地の面積を小さくすることです。セットバックを行う理由としては、車両が通行する道路の幅が狭い場合に、火災や急病人が出たときでも、緊急車両が問題なく通れるようにすることが目的です。

幅4メートル未満の道路に面した土地に建物を建てようとした場合、建築基準法にもとづき、道路の中心から2メートル敷地を後退しなければならないという決まりがあります。

このことを「接道(せつどう)義務」といい、この基準を満たしていない建物は、新築時や建て替えの際に土地をセットバックしなくてはいけない決まりになっているのです。

セットバックにかかる費用相場は、おおむね30~80万円程度です。費用項目の内訳としては、以下のようになっています。

・土地測量費
・分筆登記費用
・道路整備費用
・撤去費用

土地測量費

土地測量費は、土地の境界線が確定しているかどうかで費用が変わります。境界線が確定している場合は現状測量といって、1週間ほどかけて土地の状況を調べます。調査費用は10~20万円程度です。

境界線が確定していない場合は確定測量といい、土地家屋調査士に依頼して隣の土地との正しい境界線を測定し、確定させます。

この場合、隣の土地の所有者にも立ち会いが必要です。図面をもとに正確に測定するため、3か月ほど時間がかかり、費用は35~80万円程度が目安です。

分筆登記費用

分筆登記とは、土地を分けたことを公にするための登録費用で、5~7万円ほどかかります。土地は地番ごとに1筆(いっぴつ)、2筆(にひつ)と数え、土地を分割することを「分筆(ぶんぴつ)」とよんでいます。

セットバックする場合、土地測量と一緒に分筆登記を行うことが一般的です。

道路整備費用

道路を整備するための費用は、セットバックした土地を使えるようにするための費用で、1平方メートルあたり5千円ほどかかります。

整備するだけでなく、アスファルトを塗ったり、重機を運んだりするための諸費用も含まれるため、土地が広かったり高低差があったりすると、費用も高くなってしまいます。

撤去費用

建て替えの際やすでに建物が建っている場合は、フェンスなども含め、それらを撤去する費用も必要になります。撤去費用は建物の種類によって異なり、広さの単位で計算されます。

木造の場合、1坪あたり3~5万円程度、鉄骨造の場合は4~6万円程度、鉄筋コンクリート造の場合は5~7万円程度が目安です。フェンスやブロック塀、門などの外構にかかる費用は、5~20万円程度です。

建物や外構の種類、広さによって費用が変わるため、複数の業者から見積もりを取って比較することをおすすめします。

セットバックは自治体から助成金が出るケースもある?

セットバックは基本的に自費で行いますが、地域や周辺住民を助け合うためのものでもあるので、協力してくれる土地所有者には、自治体からの助成金を受けられる場合もあります。

たとえば、千葉県千葉市であれば、以下の内容が補助対象となっています。

助成対象 助成率 助成限度額
後退用地及びすみ切り用地内にある ・柱・門扉・
塀・擁壁の撤去 ・樹木・生垣の移植 ・公共汚水桝等の移設
左記にかかる費用の1/2 100万円
・擁壁の築造 150万円

※「すみ切り用地」とは、道路と道路のある土地を斜めに切り取って、通行しやすく、または見通しをよくするためにすることです

助成金の実施状況や受けられる条件、助成対象の内容は各自治体によって異なります。管轄の自治体のホームページか、電話で問い合わせて確認するのがよいでしょう。

セットバックした土地の固定資産税は非課税になる?

セットバックした土地は「公共の用に供する道路」と呼ばれ、土地の所有者以外にも多くの人が使うことになるため、固定資産税が非課税となります。

ただし申請しないと非課税にならないことと、セットバックした部分に車を停めたり、花壇などを設置したり、個人利用する場合は非課税にならないので注意しましょう。また、申請には以下の書類が必要です。

・セットバック部分がわかる地積測量図
・土地の登記簿謄本
・その他、役所指定の申告書、書類など

また、分筆登記しないと、セットバックした部分にも固定資産税がかかるため、注意が必要です。

セットバックに必要な土地面積の計算方法

セットバック面積の計算方法は、以下の計算方法で求めます。

セットバック面積=セットバックする距離 × 間口の幅
セットバックする距離=(建築基準法で定められた規定の道路の幅の広さ − 実際の道路の幅の広さ)× 1/2
※建築基準法で定められた道路の幅の広さは、通常4メートルです。

たとえば、実際の道路の幅の広さが3メートル、間口が6メートルだったとします。これに対するセットバック面積の計算式と答えは、以下のとおりです。

<計算式>
セットバックする距離
(4メートル − 3メートル)× 1/2 = 0.5メートル
セットバック面積
0.5メートル × 6メートル = 3平方メートル

<答え>
3平方メートル

向かいに家が建っている場合

向かいに家が建っている場合はどうなるでしょう。その際は、今ある中心線から2メートルのところまで下げなくていけません。

道路の幅の広さは、接道している両側の土地の所有者が同じ面積を分担するのが原則となります。向かいの敷地にも住居があるならば、セットバックのみで道路の幅の広さを4メートルにする必要はありません。

たとえば、接している道路の幅が3メートルであれば、広げなくてはいけない幅は1.0メートルです。その場合、接道している土地の所有者がそれぞれ0.5メートルずつ平等に後退するのが原則です。

向かいがセットバック済みの場合

向かいの敷地がすでにセットバック済みの場合は、自身が行うセットバックのみで道路の幅の広さを4メートルにしなければなりません。セットバックする際は、向かいの土地がセットバックする前の中心線から、2メートル確保すればよいです。

向かいの土地がセットバックしているかどうかは、管轄の自治体の建築課や建築指導課、道路課などに問い合わせましょう。

向かいが崖地や水路の場合

向かいが崖地や水路の場合は、自身で行うセットバックのみで道路の幅の広さ4メートルを確保する必要があります。

理由としては、崖地や水路の境界線は変更ができないからです。そのため、向かい側の崖地や、水路と道路の境界線から4メートルの位置まで、自身の敷地をセットバックしなければいけません。

セットバックのメリット・デメリット

ここでは、セットバックのメリット・デメリットについて紹介します。

メリット

セットバックのメリットは、以下の2つです。

・近隣の土地よりも安く買える可能性がある
・防災や防犯に役立つ

<近隣の土地よりも安く買える可能性がある>
セットバックをしている物件は敷地が通常よりも狭くなっており、一般的な物件よりも安い値段で販売されていることが多いです。

また、セットバックが必要となる物件は、敷地が狭まる前提で住むことになるため、使い勝手が悪く人気が下がってしまいます。

そのため、通常よりも安い価格で売りに出されるケースが多いのが特徴です。費用を抑えて土地を購入したい人にとっては、購入価格の面でメリットになることもあるでしょう。

<防災や防犯に役立つ>
セットバックは、緊急車両が問題なく通れるようにする工事です。緊急時の手助けはもちろんですが、通行する利便性の向上や道路の見通しがよくなるため、連れ去りや不法侵入といった、安全性や防犯性を高めることにもつながります。

デメリット

セットバックのデメリットは、以下の2つです。
・建てられる住宅スペースが狭くなる
・セットバックは拒否できない

<建てられる住宅スペースが狭くなる>
セットバックは敷地の一部を道路として提供することで、建物のサイズが小さくなってしまいます。家の一部として、門や塀なども設置ができません。

中古の物件を購入する場合や、所有している土地で建て替えをする場合は、注意が必要です。建物のサイズが思っていたよりも小さくなるおそれがあるので、しっかりと確認する必要があります。

セットバックをするかどうかは、所有者にとってどちらのメリットが大きいかをよく考える必要があります。建築や設備などを再構築するための費用と比較して、セットバックによる再建築のメリットを検討しましょう。

<セットバックは拒否できない>
セットバック部分の土地は、公共の道路となります。自分の所有している土地を国に渡すことに納得できない部分もあるでしょう。しかし、防犯や防災上の観点から建築基準法第43条で定められているため、拒否することはできません。

セットバックを無視して自分の土地として家を建ててしまうと、法律に違反することになるので注意しましょう。

セットバックの工事を行う際の流れ

ここでは、セットバック手続きの流れについて解説します。

一般的には、以下のような流れで進んでいきます。
・現地調査
・事前協議書の提出
・自治体による現地測量
・事前協議
・建築確認申請
・セットバック工事
・助成金や固定資産税免除の申請

それぞれ見ていきましょう。

現地調査

セットバックをする場合、物件に隣接する道路がセットバックの対象になるのか、図面を見て確認する必要があります。

自治体によっては、現場調査後に提出する「事前協議書」に、土地境界線の確定の有無や後退用の土地面積、除去が必要な物件の有無などを記載しなくてはなりません。

調査対象を調べるには、自治体の建築課や法務局に問い合わせるほか、オンラインで申請することも可能です。自治体の補助金や助成金制度についても一緒に確認できますので、これらを確認しておくとあとの手間を省けます。

事前協議書の提出

セットバックが必要だとわかった場合は、事前協議書を提出します。事前協議書とは、自治体の職員に現地調査を依頼するための書類のことで、役所に提出が必要な書類です。フォーマットに関しては管轄の自治体に確認してみてください。

手続きには、以下の書類も添付する必要があります。

・付近見取り図(案内図)
・公図の写し
・土地登記簿謄本
・印鑑登録証明書
・配置図
・後退用地求積図
・境界確定図
・現場写真

自治体による現地測量

事前協議書の内容が受け入れられると、自治体の担当職員による現地測量、協議図面の確認などが行われます。

事前協議では、職員による現況の実査内容にもとづいて、セットバック後の道路の中心線や整備などの検討を行います。測量費用は、このときの調査費用です。

事前協議

自治体職員の調査で明らかになった道路の中心線や、敷地の後退距離を考えたうえ、建築業者や自治体の職員、その他関係者で整備方法などを協議します。

事前協議が完了するまでは約1か月程度かかりますので、建築確認申請の30日前までに行われるのが一般的です。事前協議が完了したら協議書が交付されるので、建築確認申請書とともに役所や指定確認機関へ提出します。

建築確認申請

建築確認申請書は、住宅を新築するときや、建て替えなどをするときに提出する書類です。

建物自体が建築基準法や、各種条例に適合しているかを審査します。住宅の建設を始める前には、必ず行わなければいけない手続きになります。

セットバック工事

新築の場合や建て替えの際にセットバックが必要であれば、まずは建設工事を行ってからセットバック工事をするのが一般的です。通常、セットバック工事は自治体の委託業者が施工します。

助成金や固定資産税免除の申請

セットバック工事後は、助成金の交付条件を満たしている場合は申請を行います。助成金の申請は、工事前に必要な場合もあるので、申請する自治体に確認してみるとよいでしょう。

固定資産税免税は、私道として所有権を持ち続けるのであれば申請が必要になりますので、工事完了後に忘れずに申請するようにしましょう。ここまででセットバックの手続きは終了です。

セットバックの工事を行う際の注意点

ここでは、セットバックの工事をする際の注意点を紹介しますので、参考にしてください。

道路を私的に利用しない

セットバックした部分は、建物を建てられないうえにフェンスや門、駐車場などは建設できません。植木鉢の設置や、自転車の駐輪もできないので注意してください。

セットバック部分は、自身の所有する土地ではなく、建築基準法上の道路となります。個人的に利用すると罰則あるいは、課税対象となってしまう可能性があります。

セットバックなしで再建築しない

セットバックすると、再建築ができる代わりに、敷地面積が少し狭くなってしまいます。狭くなるのが嫌だからといって、セットバックしないで再建築すると、その建物は違法建築物になります。

また、役所から除去や使用禁止を言い渡される可能性があり、基本的には売ることもできなくなるので注意が必要です。

土地売却ならセットバックは不要

セットバックが必要な土地の場合、対象部分の敷地においては、自由に使用できないうえに、敷地面積として除外され、家の規模が小さくなります。敷地に面する道路の幅は狭く、使い勝手も悪いため、人気が下がる傾向にあります。

セットバックの費用が負担に感じるならば、再建築不可の状態で土地や建物を売却してしまうのがおすすめです。接道義務を満たしていない土地の状態でも売却は可能です。

再建築不可のまま売却してしまえば、セットバック費用を土地の所有者が負担しなくてもよくなるので、次の住居の購入資金にあてられるでしょう。

ただし、接道義務を満たしていない土地の物件は売れにくいので、専門の不動産業者に依頼してみましょう。専門の買取業者であれば、数日程度で買取現金化が可能です。

まとめ

セットバックとは、自宅に隣接する道路を広げるために、自分の土地の面積を小さくすることで、緊急車両が問題なく通れるようにすることが目的です。

セットバックには、土地を調査する費用や登記するための費用、道路を再整備する費用などがかかり、おおむね30~80万円が相場になります。建て替えの場合はさらに撤去する費用もかかってきます。

セットバックの工事費用は安くないため、再建築不可のままで土地や建物を売却してしまうのもひとつの手です。

建築不可の物件は基本売却しにくいのですが、専門の買取不動産会社や買取実績が豊富な不動産会社であれば、数日で現金化も可能ですので、うまく活用してみることをおすすめします。